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2013年4月21日 - 2013年4月27日

2013年4月26日 (金)

太宰の「富嶽百景」を読む

 
 「富士には、月見草がよく似合う」という短句はこの小説の中に出てくる。
それを見たくて新潮文庫(走れメロス)を買った。しかし、名文句はほかにも
あった。「富士がしたたるように青いのだ」というところ。

 地勢的に3千メートルを超える高さに盛り上がった姿がほぼ左右対称で、
雪をいただいた姿も美しい富士山について、その時々に感じたままを書き
連ねているが、面白いのはその感じ方だ。

 
 富士山が「のっそり黙って立って」いる姿に「偉いなあ」「よくやってるなあ」
と感心したり、自分のつらかった過去の姿を仮託して「富士は、くるしい」と感
じたりしている。

 また、「私」は河口湖の北方の御坂峠にある茶屋に3カ月ほど滞在するが、
そこから見る富士については「好かないばかりか軽蔑さえした。あまりにお
あつらえむきの富士で・・・恥ずかしくてならなかった」といい、また、「私」を訪
ねてきた友人もその宿から見て「どうも俗だねえ。お富士さん、という感じ」、
「見ている方でかえっててれるね」という。

 要するに、正論しか口にせず、どこを突いても弱点がなく、優等生的でしゃ
あしゃあとしていて恥ずかしいということだろう。

 上げたり下げたりされて富士山も大変だが、ある夜、御坂峠の茶屋で知り
合いの青年たちと飲んで、皆が去った後、宿の外で見たときの富士は「月光
を受けて、青く透きとおるようで、私は狐に化かされているような気がした。」
という。

 そして、私は次の言葉にマイッテしまったのだがこう続けている、「富士がし
たたるように青いのだ。燐が燃えているような感じだった」。テレビや映画だっ
たらどんな映像になるだろうか、画家なら何色の絵具でどんな絵を描くだろう
か。月の夜、富士がしたたるように青い・・・想像するとワクワクする。

 「私」はそんな青く燃えて空に浮かんでいる富士を振り仰ぎつつ維新の志士
や鞍馬天狗のように懐手をして歩く。ずいぶん自分がいい男のように思いな
がら。・・・このシーンにはオチがつくものの、なにか清々していてうれしくなる。

 「私」は峠の茶屋にいて新たな自分の文学を産もうと苦しんでいる。富士山
をそのまま見たり、ひねったりこねったり、否定したり、受け入れたり、対話を
重ね自問自答している。読んで、一生懸命になっている「私」を、太宰を、近く
に感じる。

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