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2014年3月9日 - 2014年3月15日

2014年3月14日 (金)

太田猛彦著「森林飽和」を読む

 2012(平成24)年7月刊、「国土の変貌を考える」という副題がついたNHK
ブックス。「森林飽和」という初めて見る言葉につられて読んでみた。

 海岸の砂はどこから来たか。そんな疑問を少年時には抱いたものだったが、
いつか記憶の奥に消えていた。図らずもこの本に回答が載っていた。川の上、
中流域の山地が崩落したり川床が削られたりして下流に流された砂が、河口
から海にいったん出て、それが海流によって近場の浜に漂着した、と説明され
ていた。

 本の目次から少し引いてみる。・・・「日本の野山はどんな姿をしていたか」、
「前史時代の森林利用」、「古代の荒廃」、「産業による荒廃の加速」、「なぜ緑
が回復したのか」、「いま何が起きているのか」・・・ここに書かれている内容の
ほとんどは私には新しいことだったので、新鮮に感じた。

 そして、昔ははげ山だったという言葉や掲載された1950年代のはげ山の写
真をみるうちに、以前読んだ本に紹介されていたイースター島などの悲劇を思
い出した。南洋の島、モアイ像で有名なイースター島では昔、先住民が、建材
や炊事などの燃料にする目的で森の木々を消費しつくし、実はその木々で舟
も作っていたのだが、それがなくなると海の魚など食糧を手に入れる手段を自
ら失ってしまい、結局滅亡したというものだった。

 またある地域では、食用や織物にするために羊を飼育していたが、羊が草
原の草を食い尽くしてしまったため、地肌が露わになり、雨に土が流出して作
物もとれなくなり、文明が崩壊の危機に瀕したなどといういくつかの例も紹介
されていた。

 では日本ではどうだったのか。ほぼ同じようなことが日本でもあったと、この
「森林飽和」のなかに詳細に述べられている。時の権力者の宮殿や寺院の建
材に使われ、平安京の場合でも、近場から調達していたものが、やがては近
江地方の山から伐採した木材を都まで運んでいたという。そのような例は珍し
くなく、中国・四国地方や南紀方面の山から切り出した木材を都へ移送したりし
ていた。

 製塩、焼き物、製鉄のための燃料としても木々は消費された。民衆も家を建
てたり、炊事、製炭などのために里山の木々を伐り、伐り尽くすと他所へ移住
するという生活だったらしい。その結果、里山から木々はなくなっていった。そ
して人は里山から今度は奥山にまで入って、木々を求めるようになった。

 著者は、森林が明治中期にもっとも荒廃していたとしている。「近代産業が勃
興し…人口の急激な増加、産業都市の発達、交通手段の改革、鉱物資源の
採掘などは山地・森林にも影響を及ぼした」という。

 私の生まれ育ったのは風に乗って日本海の海鳴りが聞こえ、家のそばを海
岸線と平行に国鉄羽越線の蒸気列車(後にはディーゼル車)が走る地域だっ
た。海と線路の間に砂防林が帯状に広がっていた。今、その砂防林はマツク
イムシの被害にあってほぼ全滅し見る影もなく、砂地が露わになっている。昔
は松が林立していたため見渡すことなどできなかったが、今は砂原の起伏を
見ることができる。この本には書かれていないが、この羽越線はじめ国鉄の
線路の枕木に用いるマツ材だって明治以降全国的に必要とされたはずだ。

 明治期、大水害対策として森林法、河川法、砂防法ができてから、徐々に山
林や海岸林の再生が図られてきた。森林が成長した結果、森林の木々が地
下の水分を吸収放散する(この作用によって消費される水分の量はバカにで
きないという)などしたため、土砂災害は減少した。砂防ダムの建設もそれに
寄与した。さらに建設用骨材としての川砂利の採取が盛んにおこなわれるよ
うになった。

 
 こうして、土砂が海へ流出する量が減少(a)してきたため、砂浜の海岸線が
侵食(b)されるという事態が発生する。この(a)と(b)は比例すると著者は書い
ている。この海岸の後退という思わぬ危機は、主には山地での森林の「飽和」
にその原因があるというのが、本のタイトルの由来のようだ。

 そして著者は次のようにいう。「山地保全の新しいコンセプトは、土砂災害の
ないように山崩れを起こさせ、流砂系に土砂を供給すること」だと。山からの砂
を川が河口へ運び、さらに海岸流によって沿岸域に堆積させて、海岸線の浸
食を防ぐことだというのだから、遠大な着想だ。

 そして、今、海岸林にはマツ林の中に広葉樹の姿が目立ってきたが、砂防林
としては広葉樹を植えるより、実績のあるマツの方に信頼感があるという。そ
の維持のためにはやはり地域の人々が協力して維持していくほかないだろう、
と結んでいる。

 ・・・興味深い話はほかにも書かれていて、これは買って手元に置いておく本
かもしれないと思った。

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